コラム8「デザイナーの常識、良識、見識」
安藤 孚
協会は、昨年11月の臨時総会で「公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会」から、2021(令和3)年4月より「公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会」となることが確定した。
職能団体としての協会は「職能の確立」や「Value Up JIDA」を提唱し、活動の実績を共有してきたが、協会名変更により、改めて「綱領」の見直しも急務となった。
既に「コラム 2」でも記述した通り「綱領」とは、その集団の考え方、基本方針を示すものである。今の綱領は、2003(平成15)年にデザイナー協会という職能団体として改定されたものであり、デザイナー協会からデザイン協会への名称変更と共に「綱領」も改定しなければならない。
協会論 (8)
1 協会名の改正による綱領の見直し
どんな集団や団体でも、結成されるときに最初に着手することは、その集団や団体の基本的な考え方、基本理念とか基本方針、活動目的とか活動方針、基本的役割とか社会的責任の明記である。
「デザイン」は、欧米での開花を経て戦後日本に本格的に導入されたと言われ、モノの「外形処理」と曲解されながらも日本の市場に定着してしまう。戦後の混乱期や復興期の中、欧米学習から高度成長期、安定成長期を経ていま、激動の20世紀、激変の21世紀への時代変化と共に、単なるモノづくりのデザインから、社会の時代推進力デザインへとデザインの役割も変化している。
2 新しい協会の役割
協会は社団法人としてのデザイナー利益から公益社団法人としての一般国民への利益や社会啓蒙への「公益性」が求められている。従来の「モノづくり」から「サービスデザイン」などデザインの領域拡大で、リサーチャー、プランナー、エンジニア、プロモーター、研究者、教育者、行政関係者など職能の幅も拡大化している。
モノづくりを通して問題解決を図るプロダクトデザイナーとしての中心的役割と責任は変わることなく、職能の確立と健全産業化や社会的有用性の普及など幅広く社会に応える責任がある。
3 新しい協会の求める社会
デザインは、問題解決を通して社会(生活、文化、産業)を豊かにする、という。新しい協会の求める社会とは、どんな社会か。「E S G(環境、社会、企業統治)」での理解と協力が、重要で、「協会名称変更」については、この徹底議論が最重要課題の1つ。協会の司令塔である理事会での徹底審議が先決で、新協会の「マーク」や諸規程の改定が「綱領」よりも、先に決まるなど本末転倒である。
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「綱領」の改定が、最優先事項の1つで会員がその綱領という「旗印」を共有することが新しい集団のスタートである。
情報収集 (8)
「迷走するオリンピック」
オリンピック開催をめぐる議論が沸騰している。政府は強行したいようだ。その結果がどうなるかはともかく、既に政府は多くの信頼を失っているように思われる。しかし、それ以上に国民から不信を買ったのはIOC(国際オリンピック委員会)ではないだろうか。コロナの感染状況からすれば開催を不安視するのはごく自然な反応である。そういう国民感情への配慮もなく、緊急事態宣言下でも開催できるとの認識を示した。開催や中止を決められるのはIOCで、日本側は一方的な従属契約のもとで権限を奪われている。
〜—(中略)〜—
さらに、会場整備には日本の税金が使われ、五輪関係者の日本での大会関連の所得も非課税とされている。あたかも税金も奪われているかのようだ。意外なのは、IOCが「五輪」という日本語を意匠登録したことである。この一般用語を自由に使わせないのだとすると、私たちは言葉までも奪われているのではないか。致命的なのは、五輪のすがすがしいイメージが消え失せてしまったことであろう。権限、情報、税金、言葉、イメージという五つの穴が開き、それを五輪マークが象徴しているかのようだ。結果的に成功し、そのうち忘れ去られることを祈りつつ、今こうした思いを持つ国民が多いことを記述しておきたい。 (2021/6/16 朝日新聞 より)
その他 雑考(8)
「民主主義を信じる?」政治学者 宇野重規
意見応酬こそ基盤 個人の参加と責任 諦めの感覚が脅威
——(中略)———
各人が自分の判断や意見の理由を説明するのは、民主主義が機能するための基本的な条件だからです。なぜそう考えるか。どんな判断・意見であっても、まずはその理由が示されることで、議論が始まります。———(中略)———
意見の応酬こそが、民主主義の基盤なのです。
「民主主義は短期的には誤った結論を導き出すこともあります。ただ、多様な意見が示され続ける社会であれば、振り子のように修正が効く。「理由の提示」がない状況では、健全な論争ではなく、臆測と忖度が誘発される。結果的に、言論や学問の自由も損なわれてしまいます。
私は三つのことを信じたい。公開の場で透明性を確保して決定したい。
政策決定に参加することで、誰もが当事者意識を持てる社会にしたい。
社会の責任の一端を自発的に受け止めて生きたい。
——(中略)———
「あなたはどう思う?」をきっかけに始まる議論だけが、民主主義を前に進めるはずです。
(2021/6/17 朝日新聞 より)
以上