コラム6「デザイナーの常識、良識、見識」
安藤 孚
前回に続き、今回は協会活動の後半について整理してみたい。
国際デザイン会議(名古屋)をはじめ、協会の「日本インダストリアルデザイン会議」「JIDAデザイン会議」の開催や活動の記録など、会員での共有化と社会への広報機能の重要性などについても記述したい。
協会論(6)
1 国際デザイン会議
1973年の国際デザイン会議(京都)に続き、「ICSID世界デザイン会議(名古屋)」が開催される。
会期 1989年10月18日〜21日
会場 名古屋(白鳥センチュリープラザ、名古屋市科学館、電気文化会館)
会議テーマ 「カタチの新風景 情報化時代のデザイン」
参加者 46カ国(地域) 3764名
プログラム
プラネット(惑星) デザインの21世紀 デザインアクシス デザインのデザイン
デザインを挑発 デザインを遊ぶ 日本のデザイン意匠
セッション(分科会) 普遍と固有/社会 変化・伝播 移動 国際 科学の美
遊びのかたち 四季と日本人 組む テクノロジーの系譜/技術
コンピュータ 不安・安心 プロモーション カーデザイン
挑発する想像力 アニメ進化論 日本式のマーケティング
焼く 膨張する「知」人 先端技術 量 教育—1 21世紀への
デザインーA 新しい生命 都市の快楽装置 日本式のマネージメント 継ぐ
ワールド・デザイン・アクティビティA ワールド・デザイン・アクティビティB
教育—2 21世紀へのデザインーB インターシティ
1990年代を目前にした今日、私達は時代の扉を開きつつあります。私達の生活では、大量生産・大量消費を特徴とする産業経済の発展を背景として「もの」の量的充足が進みました。このような「もの」の充足の上に立って「心」を充足する快適で潤いのある生活を希求しています。これを支える産業経済も国際経済秩序の激変の中で急速な構造変化にさらされています。国際的な人の交流機会が増大する中で我が国に期待されるのは、世界に誇れる「クリエイティブ(創造的)な活動の展開です。
1
デザインとは、人間の創造力、構想力をもって生活、産業、環境に働きかけ、その改善を図る営みと要約できます。人間の幸せという大きな目的のもとに、創造力、構想力を駆使し、私達の周囲に働きかけ、様々な関係を調整する行為を総称して「デザイン」と呼んでいます。「デザイン」は私達の日常生活を支える基本的な思想であると同時に、生活を基軸として技術、産業、地域社会、国際社会を結ぶ重要な絆としての役割を果たすことが期待されています。
デザインイヤー運動は、この認識を踏まえ「デザイン」を通じて新しい時代における生活と産業、文化のあり方を国民各分野で問い直そうとする運動です。
89デザインイヤー基本構想 (デザインイヤーフォーラム事務局)
2 国内デザイン会議
「日本インダストリアルデザイン会議」
第1回 1965年
第2回 1972年
第3回 1977年
第4回 1982年
第5回 1989年
「JIDAデザイン会議」
第1回 1966年(京都)
第2回 1967年
第3回 1968年
第4回 1969年(大阪)
第5回 1970年
第6回 1971年
第7回 1974年(札幌)
第8回 1977年
第9回 1978年(広島)
第10回 1979年(静岡)
第11回 1980年
第12回 1982年
第13回 1984年(神奈川)
第14回 1985年(名古屋)
第15回 1986年(神奈川・大阪)
第16回 1998年(金沢・大阪・広島)
「総括シンポジウム 2010 VISION」
中エリア 2010年11/6(名古屋)
東エリア 2010年11/13(東京)
西エリア 2010年11/20(福岡)
全国大会 2011年3/5(東京)
旧体制に開催された「日本インダストリアルデザイン会議」や「JIDAデザイン会議」と新生JIDAとして開催された「総括シンポジウム2010VISION」を総括して、会議内容や動員力・影響力などが、かなり異なることが言える。
3 研究会
第1回研究発表
第2回研究発表
第3回研究発表
第4回研究発表(1971(昭和46)年)
第5回研究発表
第6回研究発表(1973(昭和48)年)
第7回研究発表
第8回研究発表
第9回研究発表
第10回研究発表(1980(昭和55)年)
第11回研究発表(1982(昭和57)年)
旧体制にあった「研究委員会」の研究発表収録である。かなりレベルの高い活動成果物だと私は評価している。デザイン学会などで発表しても極めて高い評価を得るのではないか、とも言える。
4 出版活動
「JIDAと私」 1992(平成4)年
「想像産業の行方」 1993(平成5)年
「日本インダストリアルデザインの歩み」(西日本ブロック編) 1994(平成6)年
「JIDA Yearbook」 1998(平成10)年
「インダストリアルデザイン契約と報酬のガイドライン」 1999(平成11)年
「ID & JIDA VISION 2010」 1999(平成11)年
「サスティナブル知価社会におけるデザイナーの役割」 2001(平成13)年
「IT革命とデザイン新世紀」 2001(平成13)年
「ニッポン プロダクト」 2005(平成17)年
5 活動実績の共有と広報
設立の背景
任意団体の協会も1969(昭和44)年には社団法人になり、会員も700名を超え積極的活動と共に社会でのデザインの真価を問われる時代。その一方で協会は、期待される事業活動と厳しい財政事情が大きな課題となっていた。1957年から始まったGマーク制度も20年、1977年には「デザイン月間(10月)」の設置など、デザインの社会的認知が高まってきた。
1982(昭和57)年、協会は30周年を迎えたことを機会に更なる発展を目指して協会のパワーアップのために提案されたのが「JIDA基金」である、と理解している。
JIDA基金準備委員会
来年、2022(令和4)年は、協会創立70周年を迎える。
協会名称も変わり公益法人として広く多様化社会に向けて、活力のある更なる活動が求められる。
一般市民や産業界に、デザインの社会的有用性を正しく認知させ健全なデザインビジネスの定着のために協会は、更に努力しなければならない。協会活動の社会への広報活動は、それ故にいま最重要課題の1つである。
その他 雑考 (6)
平和で活力ある社会築きたい
風景は一変した。新型コロナウイルスの感染拡大という大災厄が医療体制の脆弱性や社会の歪みなど、様々な問題点に気づかせてくれたことは幸いだったと思いたい。なすべき改革を断行し苦難を乗り越えて、平和で健康な、活力ある社会を築き直す好機としなければならない。今年はその出発点となる。——(中略)——なすべきことは、米国のシンクタンク(新経済思考研究所)の論文の簡素な表題の言葉に示されている。「経済を救うには、まず人を救え」。——(中略)——コロナ禍の混乱と国際秩序の動揺。協調と競争。四つの要素が絡み合いながら同時進行する、複雑な時代である。——(中略)——大事なのは国力である。基盤をなすのは経済力だ。企業の内部留保475兆円、個人の金融資産は1901兆円と空前のカネ余り状態だが企業の投資も個人消費も低迷したままだ。国の借金残高は1000兆円を超えている。国と地方の長期債務残高が国内総生産(GDP)の2倍という財政の危機的状況を放置することも許されない。——(中略)——ITやデジタル技術では立ち遅れが指摘されている。技術者や研究者を大切にしない企業風土があるのではないか。——(中略)——書物を読み、文章を書くことで人間は知識や思考力を身につけ人間として成長する。教育の基本を間違えてはならない。為政者が国会答弁で嘘をつく、疑問を持たれる政治決定について頑なに説明を拒み続ける、などの姿は、寒心に耐えない。激動する世界にあって、国家の平和と安全確保していくには、日本の立場について国際社会の理解を勝ち取るための対外発信力が不可欠だ。——(中略)——
(2021/1/1 読売新聞 社説 より)
以上