2021年度卒業制作展訪問
公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会
中部ブロック・次世代事業担当
委員長 岡田 心
◆2021年度【卒業制作展訪問】JIDA中部ブロックデザイン賞のご紹介◆
中部ブロック・次世代事業委員会では、本年度もデザイン系大学卒業制作訪問(卒展訪問)を開催し、訪問先毎に優秀な作品を選定し表彰しました。本年度もコロナ禍での開催となり、大学ごとに感染症対策をしながら、無事に開催することがきしました。今後の開催予定はこちらを御覧ください。
本年度のJIDA中部ブロックデザイン賞は以下の方々です。
2021年度JIDA中部ブロックデザイン賞
■名古屋工業大学
2022年3月6日(日) 会場:名古屋工業大学4号館
最優秀賞:中山朋紀「足跡を見直す暮らし」
評価コメント:
近未来の生活を彷彿とさせる新住居コミュニティーの提案で、家族構成の考え方がどんどん変化し、大家族、核家族、そして、夫婦という単位のあり方の変化にも注目することで、その変わりつつある生活様式にもかかわらず家を所有するという従来の考え方に疑問を持ち、次世代の生活で起こりそうなコミニティーのあるべき姿を、名古屋市緑区の想定でデザインしている。最近では自動車などでも言われているCASEの中のSharedのように、住環境においても所有から共有へとの変化を想定し、見事に表現している点、数年後には実現しそうな提案で素晴らしかった。(文責・木村徹)
優秀賞:濱田紗希「結び輪 ―地域に寄り添った新たな観光地の提案―」
評価コメント:
観光地の住民生活を活かしながら、観光客をいかに楽しませるかという課題を見事に調和させ、楽しくスポーツを実現できる環境を構成し、スポーツを楽しむ人たちのプライベートな空間を活かしながら、道具とその競技場所の繋がりをスムーズに移動できる流れを特徴的なサークルを用い特別な雰囲気を表現し、リゾートの非日常を宴している点素晴らしい。(文責・木村徹)
特別賞:吉田早智子「風の灯 ―風を楽しむ照明―」
評価コメント:
日本の伝統的な風鈴に着目し、現在の住空間で起こっている涼しさを醸し出していた風鈴の音がうるさく聞こえてしまう時がある。そんな時代背景に真正面から取り組み問題の解決に挑戦している。提案内容は、優しい光と微風に揺れる繊細な木線のトライアングルで美しい動きを表現している。とても好感が持てる優しさが癒しを与えてくれる。時代と共に癒しの作り方も変化していくなんとも素晴らしい提案で、風鈴に限ることなく目的のために今存在するモノの具体的なあり方を時代背景に合わせてモノ作りしていく行為は、デザイン本来のやるべき事。心を継承し、形状を時代背景を考慮しながら革新していく素晴らしい提案です。 (文責・木村徹)
コンセプト賞:日合貴大「日本の伝統を踏襲し、かつ現代の空間になじむ椅子」
評価コメント:
座ることをテーマに、現在社会で当たり前に私たちの生活に溶け込んでいる椅子に注目し、本当にこれでいいのだろうかと沢山の試作品を作り日本人の椅子を使った生活に問題提起している。試作品の中にも素晴らしい形状を伺う事が出来るモノがあったが、若干最終のモデルの姿に物足りなさを感じた。しかし、着眼点、日本の伝統を切り口に座るという行為に切り込んだコンセプトは素晴らしい。 (文責・木村徹)
■大同大学
2022年2月27日(日)会場:ナディアパーク・2Fイベントスペース
ZOOMによるオンラインプレゼンテーション&審査会を行いました
最優秀賞:杉原大介「自宅から球場に声を届けるリモート観戦用メガホンのデザイン研究」
評価コメント:
コロナ禍における応援スタイルの問題を解決するため、自宅から球場に声を届けるリモート観戦用メガホンを研究。スタジアム応援席に、スピーカーと応援者を投影するモニターを搭載して声を届けるアイデアを発案。新しいデジタル技術を活用し、選手もファンと同様エキサイティング出来るシステムデザインには、大きな期待を感じました。また、体が不自由で球場に訪れる事の出来ない人の為にデジタルボックス席を設ける事で新サービスに繋がると考えます。(文責・井関 徹)
優秀賞:宮崎佑奏「愛猫といつでも一緒にいることができる家具の提案」
評価コメント:
普段はリビングに置きキャットハウスとして、キャリーバッグはちょっとしたお出かけに使用する。災害時には、転倒物や落下物から愛猫を守る強度を確保したシェルターとなり、愛猫が入ったキャリーバックを取り出し迅速に避難できるペットと寄り添うデザインは、構造的にも完成度が高く、ほっこりとさせてくれました。また、震災とペットという新たな課題を感じさせてくれる物となった。(文責・井関 徹)
優秀賞:松本優佳「日本の花をモチーフにした傘のデザイン提案と研究」
評価コメント:
日本に馴染みがある花をモチーフとした晴雨兼用長傘は、生地によるグラデーション表現や花柄形状やつぼみをモチーフにした持ち手の握りやすさなど協力メーカーとの試行錯誤のプロセスによる完成度あるデザインにまとめた点は高く評価したい。日差しのグラデーションや花のような影、好きな香り等、天候を楽しむ傘は、使い捨て傘の時代に於いて、一本の傘をいつまでも大切にする価値創造を感じさせてくれました。(文責・井関 徹)
■名古屋市立大学
2022年2月20(日)会場:名古屋市立大学・北千種キャンパス
最優秀賞:甲斐 翔「テオヤンセンリンク機構から着想を得た手動田植機の構造研究」
評価コメント:
テオヤンセン機構を実用的なものへ実装する試みは過去にもあったが、田植えと結びつけたのは初めてではないだろうか。一見、荒唐無稽な組み合わせに思えるが苗を植える動きはこの機構の動作と親和性が高い。また田んぼという泥で満たされた不整地を動き回る手段としても悪くない。 機能性だけで言えば、従来の田植え機に勝るとは言い難いが、テオヤンセン機構の動きで苗が植えられる様子は祝祭性がある。お米という日本人にとって重要な穀物を大地に植える行為をただの作業ではなく文化的な行事へと昇華する可能性も感じられた。 (文責:野口大輔)
優秀賞:相原洸太「物理現象のメタファーを活用した人とプロダクトの新たな関係性の構築についての研究」
評価コメント:
無機質になってしまいがちな家電に動物的な動きを入れることで、親しみを持たせることにチャレンジした意欲的な作品であった。動物的な動きと製品の機能をどうマッチングがさせるかがキモだと思うが、加湿器というチョイスがとてもよかった。 動物的な動きがただのエモーショナルな機能だけでなく、加湿器の体力とも言えるタンク容量を示す機能性を有しているため、加湿器に生命を感じることができた。(文責:野口大輔)
優秀賞:松田理沙「手指器用リング」
評価コメント:
手先が不器用という作者のコンプレックスから出発した研究が明快で力強さがあった。調査結果に明確な優位性があったのも素晴らしい。その結果を製品に落とし込む段階の荒さは気になる点ではあるが、手指の可動性の良し悪しは、コンプレックスだけでなく加齢から来る衰えやeSportに代表されるような手指の可動が重要な能力となるものなど、汎用性と社会性が高い点が高評価につながった。 (文責:野口大輔)
■名古屋デザイナー学院
2022年2月20日(金) 会場:名古屋デザイナー学院
最優秀賞:牧 利輝斗「RICHGREEN」
評価コメント:
雑草(野生の草花)を原材料にしたクレヨンで、過疎化と雇用を生み出したいという発想は、作者の素直な気持ちが明確に表れていました。クレヨンを六角錐(ろっかくすい)にしたことで、太い線と細い線を描き分けられると作者は語っていましたが、それよりもパッケージの美しさに活かされているように思えました。 ベースが素晴らしいアイデアだけに、JIDAメンバーから「もっとこうしたら」と沢山の意見や質問が飛び交いました。コンセプトは子供向けとなっていますが、僕達は大人向けの商品として、相当に価値のあるものになると考えています。素材の草花の香りなども楽しめるともっといいですね。「緑だけでこんな絵を描いてみました。皆さんもトライしてみて!」という見本があったらもっといいですね。 (文責・水野健一)
優秀賞:大友綾奈「箸置きの新しい展開方法」
評価コメント:
美術館をターゲットに絞っていることが、「なるほど」と、この作品の価値を明確にする説得材料でした。絵のアイコニックな部分が立体になっていて、ブリスターから取り出すと、姿を消して箸置きになるアイデアは、シンプルだけど本当に面白い。美術館の展示作品グッズで、あまり欲しいと思うものは無い中で、これがあったら僕は買ってしまいますね。デザインの観点からすると化粧箱が簡素過ぎて、もう一工夫欲しいところではありましたが、着眼点の素晴らしい作品でした。将来インバウンドで空港に置かれていてもおかしくありませんね。(文責・水野健一)
■静岡文化芸術大学
2022年2月19日(土) ZOOMによるオンライン審査
今回は事前に制作したプレゼンテーション動画をJIDAメンバーでチャックし、2/19の午後に名古屋芸術大学にてオンライン審査会を行った。 集計データを参考にしながら、参加メンバーによる熱い議論がかわされた。
最優秀賞:阿部 涼「Breath Chair」
評価コメント:
“ニューノーマル”、今を受け止めて如何に人間らしくストレスのなく過ごせるか?1つの提案を見せて貰ったと思います。語り(説明)の途中に一息入れているのですか?一気に語られていたのであれば思いが次々と出てくる何か引き込まれていく様で、素晴らしいプレゼンでした。3D製作の取組みにも関心しました。(伊奈史郎)
何よりこれを自分で作ったことに驚いた。3Dプリンターを使いこなし、3Dプリンターならではの形状をしっかり具現化している。人と人の間のエアカーテンの機能検証のために形風洞実験までしていることも面白い。まさにニューノーマルの製品と感じられる。(堀田俊則)
努力賞:渡瀬 七虹「うきはな」
評価コメント:
表面張力でピースが付き合う発見、アイデアと水面での美しい佇まいが好印象。保温効果に加え、並べる機能にリバーシのようなゲーム要素など目的や広がりを持たせられると商品性としてリアリティが増す。同時に、ターゲットもOLへ限定せず親子でのコミュニケーション知育玩具として広がりが出る。使用後の乾燥法方法や保管方法まで検討し、清浄に保つ方法があると良かった。(大塚淳)
現在人の日頃の疲れをいかにとるかに挑戦し、限られた時間の中で日々必ずのように入る習慣のお風呂に注目し、その中で心を無にしリフレッシュしようと言う着眼は素晴らしい。日本の伝統形状で有る青海波「和柄」の終わりなく続く繰りかえしの形状に注目し、水の表面張力と言う自然の力でくっ着けて、また、お湯の保温も考え、その効果を実験するなど、一石二鳥の素晴らしい作品だと思います。(木村徹)
努力賞:日下部 結女「蒸し野菜のデリバリーサービス『mim!』」
評価コメント:
コトの深堀りがされていて説得力がありますね。色で野菜を選び、意図しない組み合わせができることじゃワクワク感があって面白いです。蒸し器の発想もよく考えられている。 ややアプリ寄りな製作ではありますが、考え方がしっかりしているので好感が持てました。(水野健一)
未だ口にしていない野菜を、視覚から認識するきっかけづくりとして、低年齢の子が使うと、食全般に興味が広がる可能性があるのか、と思った。(小幡真也)
きっかけ作りとしては面白いと思いますが、どう継続させるかというところの視点が道具の蒸し器だけに頼っている感じがしました。〇〇専用の道具は継続性という共通の問題を抱えており、問題の本質的な部分への深堀りが弱いかなと感じました(後藤規文)
■名古屋芸術大学
2022年2月19日(土) 会場:名古屋芸術大学・西キャンパス
最優秀賞:Soh Yun Ping「ひらく雨具」
評価コメント:
昆虫の翅(はね)のたたみかたへの興味から「折り紙」の研究を行い、昆虫が長年変化してきた機構と長年変化していない雨具を対比したアプローチが興味深い。畳まれた状態から広げたときの大きさの差と、美しさが印象的な雨具は、たった「3つの折り方」から具現化している。この形状に至る多大な試作による成果であるし、今後CADによる設計への発展性も予期できる基礎的な部分と、紙以外の素材を用いるなど、今後の発展も楽しみな作品であった。(文責・小幡真也)
優秀賞:渡邉真菜「花暦皿(はなごよみざら)」
評価コメント:
日々接する食器に着目し、ものを大切に使う気持ちが続くようにと、花と暦(こよみ)を使った小皿の提案した作品。基礎的なフォルムは花びらをモチーフに展開し、12ヶ月の暦/12種の花を表現した皿には、釉薬や金装飾などの違いで気持ちを高揚(アゲ)させ長年楽しめる配慮が備わっていた。また、贈り物として市場に浸透することを狙った個装の布、ラベルの工夫など全般のまとめが印象的だった。(文責・小幡真也)
優秀賞:玉置 晨「DUROS (デュロス)」
評価コメント:
学生当人が来年から勤務する場を背景に、その地域に根差したモビリティ提案と問題解決を狙った作品。四国:高知の名所をつないで観光客を呼べないか、JR線を使えないか、などの町村の声を取り入れたいと工夫した結果、カギとなる多目的ビークルをデザインした。川、道路、鉄道などで利用する車両のスタイルは自然と接点を見直せることや昆虫の要素を取り込み、躍動感を表現している。(文責・小幡真也)
■名古屋学芸大学
2022年1月22日(土)会場:愛知県美術館ギャラリー8F
前期で研究、後期に研究を元に制作という日程のためか、かけている時間の密度を感じた。ユーザービリティ調査を元にした説明は説得力があった。 また自分の興味のあること、好きなことをベースに社会性を組み合わせて制作した人が多く、生き生きと発表している姿も印象的だった。 (総評:野口大輔)
最優秀賞:鏡味肖斗「ビルドスマッシャー」
評価コメント:
ホッケーという広い世代が一目でルールがわかるゲームを下敷きにしているのが初見でも楽しめて良い。 持ち手「スマッシャー」の造形やギミックの作り込み、レベルアップの仕方など緻密に時間をかけて検証した後が見られる。始める敷居は低いがやり込み要素が各所に散りばめられたレベル設計が秀逸である。(文責:野口大輔)
優秀賞:加藤怜可「Belle Courbe」
評価コメント:
明確なターゲットに向けて、ヒアリングをしたり形状の実験をしたりするなど適切にデザインを進めている。特徴となっている全面が大きく波打った天板は、化粧品の転がり防止などの機能実現だけでなく、その柔らかな外観からは優しさや明るさが感じられ晴れやかな一日が始まることを期待させる。(文責:堀田俊則)
■名古屋造形大学
2021年12月22日(木)会場:愛知県美術館ギャラリー8F
ライフデザインコース16名の作品発表を聴きました。日常生活で見過ごされがちな問題をメンタル面に着目し解決していく作品や、発想豊かな作品など優秀な提案を多く見ることができました。課題は、自分の考えを聴き手(購買者)に如何に理解して貰うか伝達する表現方法にあります。
今回、着目した日常生活の問題を更に深く分析することで課題の本質が見えてきます。皆さんのデザイン力で社会を大きく変える提案を期待しています。(総評・伊奈史朗)
最優秀賞:谷越日和 「擬人化を取り入れた家電製品」
評価コメント:
「人と生きる物」をテーマに家電製品と人との関係性を掘り下げた提案で、動作や質感にペットのように愛玩できる要素を盛り込んでいる。ただ一般的な「可愛らしさ」ではなく、物側から人にすり寄ってくる「頼りなさ・弱さ」がコミカルなブランドイメージとなっていて面白い。それぞれの質感の差を表現するために白色に揃えているところなど、表現にもセンスを感じる提案である。(文責・後藤規文)
優秀賞:渡邉瑞貴 「使い方に自由度のある家具」
評価コメント:
リビング用のテーブルと椅子の提案で「引き出し」の箱としての使い勝手を掘り下げた提案。ディテールなど丁寧につくられた試作は完成度が高く、各部位に込められた想いを感じる好感の持てる作品。ウッドショックの影響か、材料が揃わなかったことを逆手にとらえ、様々な種類の木材を部位ごとに上手く使い分けているところにもセンスを感じる作品である。(文責・後藤規文)
優秀賞:佐々木花 「からくり機構を利用した文具」
評価コメント:
デザイン視点として、現状の社会的問題点に対する考え方(SDG's)のようなテーマや現状の生活の不便を解消する考え方は重要なデザイン課題であり顕在化している一般的なテーマです。佐々木さんの日本の伝統工芸に光を与える事に着眼した姿勢を評価しました。モノは時代に生きてきた人々の知恵の上に成り立つものです。確かなからくり技術の研究の成果を現代の文具アイテムとして捉えたプロダクツは伝統技術の高い品質を受け継いだデザインとなっている。伝統技術を継承したデザイン視点にセンスを感じます。(文責・江藤太郎)
特別賞:志水大樹 「ALINE(変身ヒーローとデザイン)」
評価コメント:
戦隊モノ・ヒーローのコスチュームの提案で、パーツ類は自身の身体を型取りにフィットするように制作された力作。歴代の戦隊ヒーローを研究し、動きやすく、かっこよく見えるボディバランスをベースに考案されていて、なるほどと思わせる要素も多い。好きな事をとことんやり抜いた研究は「あっぱれ!」である。(文責・後藤規文)
主催:(公社)日本インダストリアルデザイン協会・中部ブロック
協力:セントラル画材株式会社