【開催趣旨】
プロダクトを最終製品に仕上げるためには表面処理が欠かせません。
表面処理の目的は、加飾のほか製品の表面保護や製品機能の補完など様々です。今回は表面処理の中でも塗料にポイントを絞って「塗料の機能最前線」として塗料の機能や性能などについての勉強会を全4回で開催しました。また勉強会会場では実際のサンプルに触れながら解説を聞くことが出来ました。
今回の講師は、JIDA正会員の武蔵塗料株式会社の金子友睦氏と五十嵐貴行氏でした。
同社は企業目標を「色と機能で世界を豊かにする」として、1958年の創業、塗料は100%オーダーメイド、世界最高峰の調色力で対応しています。また世界11カ国の拠点から顧客へサービスを提供し、カーボンニュートラルへ積極的に取り組んでいます。
第101回-1 耐傷編 こちらへ
第101回-2 機能編 こちらへ
第101回-3 意匠編 こちらへ
第101回-4 環境編 こちらへ
第101-1回 耐傷編:「傷付き」の課題に対応した機能性塗料
【 開催日 】2023年5月19日(金)16:00〜17:30
【 題 目 】塗料の機能最前線 耐傷編
【参加人数】71名(ハイブリッド開催:会場参加6名、オンライン参加65名)
【開催形態】ハイブリッドセミナー形式
1. 塗料の役割
塗料の役割には「物体の保護と美粧、特別な機能の付与」があり、特徴として主に1液硬化型塗料(1K塗料)、2液硬化型塗料(2K塗料)、UV 硬化型塗料(UV塗料)の3種類がある。
2. 耐傷付き機能のある塗料の需要
ピアノブラックのような髙光沢な表面は小さな擦り傷でも目立つ。こうした表面の「傷付き」を防ぐ方法として「耐傷付き性塗料」による塗装がある。
3. 耐傷付き性塗料
耐傷付き性塗料には、傷が付かない/付きにくい塗料と、多少の傷は復元する自己修復塗料がある。耐傷付き機能を有する塗について、それぞれの特徴と事例を紹介する。
3-1 スチールウールを使用した傷付き試験
試験条件:スチールウール#1000、100g/cm2荷重、50往復摩耗
3-2 スチールウールを使用した過酷な試験
往復傷付き試験では硬質UV型では傷が付き、超耐擦傷性塗料では傷が付かない。
3-3 真鍮ブラシを使用した傷付き試験
2液型自己修復塗料は、傷が付いても復元する性質を持つ。
ブラッシング直後の表面 室温下30分放置後表面
3-4日焼け止めを使用した耐薬品試験
2液型塗料ではひび割れが発生するが、表面の硬い2液型ハードコートとUV型塗料に変化はない。
3-5 鉛筆硬度試験
超高硬度UV型塗料は9Hに耐える性能を持つ。
3-6 耐傷付き性試験
2液型塗料は大きな傷がつき、ソフトフィール塗料は多少傷がつくが、2液型高耐傷つき性塗料と耐傷付き性を有したソフトフィール塗料は傷が付かない。
第101-2回 機能編:耐汚染、対薬品、無反射、触感、抗菌、再現性、作業性など
【 開催日 】2023年6月2日(金)16:00〜17:30
【 題 目 】塗料の機能最前線 機能編
【参加人数】49名(ハイブリッド開催:会場参加3名、オンライン参加46名)
【開催形態】ハイブリッドセミナー形式
1. 耐汚染機能のある塗料
ピアノブラックのような髙光沢な表面は、指紋跡が目立つことが課題である。またマットな質感の「白」製品は、汚れ目立ちで採用を躊躇される場合もある。プラスチック製品などの表面の汚れを防ぐことは大きな課題であり汚れを防ぐ方法として「耐汚染性塗料」による塗装がある。
2. 耐汚染性塗料
耐汚染性塗料には、高光沢意匠と低光沢意匠向けに「汚れがつきにくく汚れが取りやすい塗料」がある。耐汚染機能について、それぞれの特徴は次の通り。
3-1 高光沢意匠向け耐汚染UV型塗料
指紋、油性マジックを使用した耐汚染性試験では拭き取り残しはみられない。
3-2 艶消し意匠向け耐汚染UV型塗料
通常のUV型塗料に比べ、耐汚染UV型塗料は、艶消し意匠において優れた耐汚染性を有す。また油性マジックを使用した耐汚染性試験でも、拭き取り後の痕跡は起こらない。
3-3 艶消し意匠向け耐汚染2液型塗料
通常の2液型塗料に比べ、耐汚染2液型塗料は、艶消し意匠において優れた耐汚染性を有する。耐薬品性比較試験でも、拭き取り後の痕跡はない。グロス感のある外観の高光沢意匠、艶消し意匠それぞれに対応した耐汚染型塗料がある。
4. 抗ウイルス・抗菌塗料について
抗ウイルス・抗菌塗料ラインナップでは、表面のグロス・マットの意匠性、UV型・2液型とそれぞれの用途に対応した抗ウイルス・抗菌塗料がある。
5. 触感塗料
塗装により手に触れる部分にやわらか感、しっとり感など触感を付与することができるソフトフィール塗料には、さまざまな触感と用途に対応した塗料のバリエーションがある。
5-1 優れた耐加水分解性
ビデオカメラのグリップ部、自動車の内装などの従来あるやわらかさやスムース感のある表面を持つ製品が経年変化によりベタベタとした触覚に変わることがある。これらは、材料が加水分解することにより発生する。
6. 無反射塗料
不快な反射の防止や映像の高鮮明化などを実現するために光の反射を抑える解決策として無反射塗料がある。例えばヘッドアップディスプレイでは反射を抑える漆黒性塗料が使用される。
6-1 低拡散反射塗料
拡散反射率の調整が可能。 低拡散反射コーティングを行うことで、入射光に対し反射が抑えられる。
6-2低拡散反射塗料
写真をより鮮明に写すため光の反射を抑える低拡散反射塗料が利用されている。レンズフード内に低拡散反射処理を行なうことにより、光の反射が抑えられて写真のコントラスト低下を防ぐことができる。
カメラのレンズフードへの使用用途例
第101-3回 意匠編:塗料で広がる、加飾の世界
【 開催日 】2023年7月7日(金)16:00〜17:30
【 題 目 】塗料の機能最前線 第101-3回 意匠編
【参加人数】53名(ハイブリッド開催:会場参加2名、オンライン参加51名)
1. 製品表面の「意匠の再現」
1-1 塗料による色の再現性
調色技術力:多彩な原材料でイメージ通りの色彩を表現する。
塗料設計力:色の再現性、塗装のしやすさを追求し、塗装する指定素材に対して意匠を実現する
現場再現力:世界各国の現地ニーズに合致した塗料を、現地で提供す。各種トラブル(塗装時不具合等)を解決し、量産性を向上させる。
1-2 3つの壁
①美観の壁:素材マテリアルだけでは求める美観が表現できない。②品質規格の壁:求める塗膜性能が出ない 。③量産性の壁:求める量産品質が安定しない(色ブレ・ツヤブレ・剥離など)。これらの壁を乗り越えて狙い通りの製品へ繋げる。
2.加飾の検討 その1
金属独特の質感や触感、高級感のある製品としたいため、金属を使用して製品開発を行いたい。しかし、さまざまな事情で使用できず、代替えの技術にて金属の意匠表現をしている。例)メッキのような鏡面感としたいが、環境への影響を考えるとメッキが使えない場合、塗装で代替する。
2-1 高輝度塗
高輝度を 1 コートで表現可能
2-2 超高輝度塗料
超高輝度を 1 コート調色によりさまざま金属調表現が可能である。
2-3 メッキ調塗料(2液硬化型塗)
メッキに近い高輝度シルバー
2-4ミラー調塗料
メッキ同等の鏡面感を通常の塗装設備で再現できる。電波特性にも優れ、電波を透過するため通信機器などに有利、また廃液の処理が不要である。
3.加飾の検討 その2
3-1光輝材
アルミペースト、パール顔料、ガラスビーズなどの光輝材を用いて、光の干渉や反射を生かし、金属調やシルキーな質感の表現が可能である。アルミペーストを使用すると粒子感のある金属表現、パール顔料を使用すると滑らかなシルクのような表現が可能で使用する光輝材によってテクスチャーの表情が変わる。
3-2シュリンクペイント
熱硬化で表面に皺ができ、凹凸意匠を塗装で実現できる。べップコートのクリヤ層で凹凸の模様を表現しているので、下地をさまざまなカラーで展開できる。光輝材を用いたベースコートでは、光の加減でより立体感が表現できる。
3-3 クラッキングペイント
熱硬化で表面塗膜がひび割れを起こし、独特な立体模様が表現できる。割れた部分はベースコートが見えるので、ベースコートの色を変えることで模様がより強調できる。
3-4 石目調
塗料にビーズを入れ、石のような模様が表現される。
3-5プロット塗装
表面がツブツブとした仕上がりとなる特殊な塗装方法で、ドライタイプとウェットタイプがある
3-6グラデーション
3-7キャンディートーン
輝度の高い下地の上に透明度の高い色でカラーイング塗装をした意匠表現が可能でベースコートの高輝度シルバーを活かしながら鮮やかな意匠を表現可能である。
3-8たまり塗装
3-9 シボ×塗装
体形状のシボ素材に塗装する事により魅力的な造形、面質を表現可能になり平面意匠を超えた質感が再現できる。また同じ色を平面とシボに塗装すると、シボの模様が立体的に強調され、独特の世界観が広がり光輝材や触感の付与など、さまざまな意匠表現の掛け合わせで表現の幅が広がる。
5加飾の検討 その3
与えられたイメージを元に、様々な表現が可能
5-1塗料の種類による金属調輝度の比較
5-2ミラー艶や色味を変更する
5-3蛍光顔料を使用した高彩度表現
5-4ビーズを使用した石目調表現
5-5光輝材を使用した偏光表現
5-6蓄光原料を使用した表現
明るい場所での見え方
暗い場所での見え方
第101-4回 環境編:塗料で創る、サステナブル社会
【 開催日 】2023年7月21日(金)16:00〜17:30
【 題 目 】塗料の機能最前線 意匠編
【参加人数】42名(ハイブリッド開催:会場参加2名、オンライン参加40名)
1. 環境への取り組み
サステナブル社会の実現に向けて
「環境破壊」地球温暖化に伴う気候の変化がもたらす様々な自然・社会・経済的影響に対して、世界各国との協力体制を構築し、解決策を見いだしていかなければならない。
2. 環境配慮型塗料
2-1水系塗料に期待される効果
・VOC含有量70-80%削減による、浮遊粒子状物質、光化学オキシダント対策
・中国のVOC規制に備えた設計値(VOC含有量200g/L以下)
・非危険物のため、保管数量の制限無し、輸送コストの削減
・持続可能な開発活動(SDGs)に貢献
2-2バイオペイントの特長
①循環型社会形成に貢献
再生可能資源である植物材料を使用することで、持続的循環社会を形成。
②溶剤系塗料と同等の意匠性、塗膜性能を実現
家電、自動車などの分野をターゲットにした塗料設計、汎用的な塗料ラインナップ。
③地球温暖化防止に貢献
植物由来材料を使用することで、温室効果ガス/CO2排出量抑制を目指す。
バイオペイントの主要植物原材料
3. 共創による取り組み
3-1塗装で「めっき」外観を得ることを目指す。
① 塗料の消費量が1/2〜1/3になり、高価なインジウム塗料を効率的に使用できる。
② 薄膜多重塗装が可能になり塗装均一性の高い仕上がりが可能になる。
③ パッケージ化された塗装システムによって、無駄なサンプルワークを削減できる。
インジウム塗料は島状構造膜を形成。電波の透過性があり、Rの技術での超薄膜化で、スマートフォンや家電製品、自動車の電子機器部品に使われる電波(5G, ミリ波)の特性を低下しにくい塗膜となる。
機能塗膜 ミリ波透過性
3-2 型内塗装
型内成形塗装機向け成形用塗料開発を通して、二酸化炭素を削減する。塗装と射出成形の一体化により、自動車内装、家電、住宅設備などのプラスチック素材用ピアノブラック塗装仕上げの工数を削減する。
3-3石灰石50%ペレット × バイオペイント
石灰石から作るプラスチックペレットの成型とバイオペイント塗装で二酸化炭素低減75%の取り組み、LIMEXペレットは、一般的なプラスチックと比べて、原材料調達~製造工程において、気候変動影響を37%削減、使用済みLIMEX製品から製造した場合は78%削減した(重量ベースでの比較)。
3-4藻類を活用した新産業をつくる日本発の企業連携型プロジェクト
藻類は、陸上植物との比較において、圧倒的な物質生産効率を誇る有限な淡水資源の利用が社会課題となっている中で、少量の淡水で育つ藻類は、これからますます必要とされる。さらに藻類培養は水と光があれば可能で土壌を必要としないため、農業利用が難しい砂漠や荒地、耕作放棄地なども活用可能。食料の安定供給が課題となるこれからの時代に、土地利用において食糧生産と競合しないことは、大変大きなメリットである。
3-5対象物に極薄のガラス膜を生成するガラスコーティング
ガラスコーティング剤の工業化は水分硬化薬剤の工業化を開発中である。
ハドラスガラスコーティングのメリット
① 表面を高純度のガラス被膜で保護するコーティング
② 汚れ防止、傷防止、錆防止、耐久性アップなどの効果を発揮
③ 長期美観の保持、容易なメンテナンス性
おわりに
今回の勉強会に登壇頂いた武蔵塗料様では個別のご相談も受付けていただけます。
どうぞご活用ください。