【開催日】2022 年 6 月17 日(金)16:00~17:30
【 題 目 】JIDA Standard Samples 6〈WOOD〉発売記念講演
「人に優しく温かく!心を癒す木材の魅力」
【 講 師 】講師:東京都立産業技術大学院大学 助教 中島修氏
【参加者】20名(会場参加6名、オンライン参加14名)
【開催方法】ハイブリッドセミナー形式(JIDA事務局会場参加 および Zoomオンライン参加)
【概要】
公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会 素材加工研究委員会(旧スタンダード委員会)では、これまでにプラスチック、金属の素材や表面処理を中心とした標準サンプル帳を JIDA STANDARD SAMPLES として提供してきました。そしてこの度、昨今の自然素材を活用したモノづくりが注目されている状況を踏まえ、木のサンプル帳を発刊するに至りました。
木材は私たちの生活の身近にあり入手や加工も簡単ですが、多種多様な材料をどのように使い分けるか判断することが難しいばかりでなく、取り扱いも難しい材料です。そこで、私たちは木材を製品に活用しようとするデザイナーやモノづくりに携わる人たちに必要な情報を無垢の木材サンプルと供にお届けする勉強会を企画しました。
今回の勉強会では、新刊の「木のサンプル集」JIDA STANDARD SAMPLES「6」のお披露目と、木材に関する技術的な情報や性質について解説しながら、人に優しく温かく、心を癒す素材であることを知るための実演を交えて木材の魅力を伝えます!
詳細の情報は https://www.jida.or.jp/information/jida-sample-wood
一般のサンプル帳の販売はこちらから:https://shop.jida.or.jp/pages/jida-standard-samples
JIDAギャラリーより配信
【プログラム】
1. JIDAスタンダードサンプルについて
JIDA STANDARD SAMPLESは樹脂、アルミ、R加工の5巻のサンプル帖を発刊してきた。今回は新たに「6」として「木材」のサンプル帖を作成しました。木材は天然素材であり、幅広く確かな情報収集が必要であるために編纂に3年間を費やし、この結果、多くのサプライヤー、関連する学会や団体、教育関係者や委員会メンバーの協力のもとで完成しました。
2. 木材の他の素材(樹脂・金属)との違い
木材は天然素材である樹木から切り分けて供給されている材であるため、木取りの箇所によって1つ1つ性質の差が大きく現れます。一方、工業製品である樹脂や金属は性質が均一な素材です。この点が素材としての性質の均一性の差が大きな相違点です。
Q1 国産材と外国産材で、同じ木材の加工性などで違い
A1 例えば、日本のくるみ(主にオニクルミ)と海外のくるみであるブラックウオールナットでは、同じ「くるみ」という木材種であっても硬さが異なるために加工性および使用用途に違いがあります。さらに日本産の同じ種から育った木でも生育環境により成長が変わることにより、硬さや色も千差万別に異なります。選定にあたっては材の名称だけで判断するのではなく、実際に手に取って確認して選定することが適切です。
Q2 JIDA STANDARD SAMPLES 6は、前半ページは国産材で後半は外来材という掲載構成でしょうか?
A2 国別に分けるのではなく、エリア(地域)という概念で掲載しています。例えば、日本では北海道から本州にかけて分布し、加えて朝鮮半島から中国大陸の南部までまたがって分布している材の例もあります。
3. 手加工と機械加工の違い
手加工は単品の精密で細かい細工を作りたい時に選択する。木材固定時の圧力や切削力が柔軟に対応できるので、様々な木材の性質や状態に対応することが可能です。
機械加工は大量に作りたい時に選択します。しかし、回転切削は木材に負荷のかかる加工となるために、木材の性質や状態によっては割れや焦げが発生する可能性があり適切ではない場合があります。
Q3 交錯木理のように木目が交錯した状態の木材はどのような加工をしたらよいか?
A3 今回のサンプル帖に掲載されているブビンガが該当します。機械加工では割れる加工性が高いため、手加工での仕上げを選択することになります。
4. 広葉樹と針葉樹の使い分け
広葉樹のケヤキ、ナラ等と針葉樹のスギ、ヒノキ、マツ等は葉の形状で分類されています。広葉樹には丸い葉、針葉樹には細い葉です。広葉樹は固く緻密なものが多いので、家具のジョイント部や指物、バット、ラケットなど比較的小さな物に適用されます。針葉樹は成長が早く、軽く曲げに強いので建物など大きなものを作る時によく使われてます。
Q4 針葉樹をプロダクトに使用することは可能ですか?
A4 可能。針葉樹を2次加工して圧縮することにより密度を上げ表面硬度を上げ椅子などで使用している事例もある。ただしその分コストも上がります。また木製玩具などには万一投げたりした際に固い木材よりも安全という材の柔らかさの特性を活かして、ヒノキなどをそのまま使用することもあります。
5. 知っておいた方が良いこと
木材は水分や熱を加えると変形し、紫外線によって割れや反りが生じます。
木材に含まれる水分量は15%程度が理想的です。しかし異なる水分量の木材も販売されているので、購入時には注意が必要です。
Q5 デザイナーが木材を使用する際に、辺材を使用することはあるか?
A5 用途によって辺材を使用することはありますが、辺材は柔らかいために反ったり割れたりすることが多いです。さらに、成長の過程である辺材は芯材に比べて水分を多く含んでいるために扱いが難しく、あまり使用しない傾向にあります。これらの性質を理解した上で使用することは可能です。
Q6 合板を作る時には木材を指定することができますか?
A6 特注扱いで可能です。その場合はコストが上がります。合板の中の密度を上げると強度が上がるため、指定材を使用することによりその合板に何を求めるのかを判断基準として選定するのがよいです。
6. 木材の選び方
中島(講師)の個人的な好みではあるが、あまり木目の強いものは選択しないです。柾目使いをすることが多い。理由はデザインしたもののカタチが木目にひっぱられて歪んで見えることや、左右対称に見えないことがあるためです。
Q7 サンプル帖に有効期限はありますか?
A7 規定する有効期限はありませんが、サンプルの木材は天然素材であるため経年変化は起こります。特に紫外線や湿気には弱いです。このため取り扱いはご注意頂きたいと思います。構想初期の今から3年前の2mm厚のサンプル材でも木が割れたという報告はないです。ただし、絶対に割れないということではないとは思います。
Q8 木材を長持ちさせる方法としてはどのようなものがありますか?
A8 塗装で守る方法がある。塗装方法は様々で、その中でもオイル仕上げは調湿効果がある塗膜を作るので、それぞれの環境に適応できるメリットがあります。
漆は長期保存に向いていますが、コストがかかります。またソープフィニッシュも浸透する量はオイルに比べて少ないですが、選択肢にはなると考えます。
7. 実演“利き木”
数種類の木材をカンナで削り、加工のプロセス説明や、削ることで発生する木材の香りを参加者が実感しました。また、実演では、カンナで削られた木表面のツヤ感や鉋くずの香りから参加者に何の木かを当ててもらうクイズ、それぞれの木材の説明、カンナ掛け体験をしました。
カンナ掛け体験
8.その他の質疑応答
Q9 人の出入りが少ない家の木材のカビへの対処はどうすればよいでしょうか?
A9 風通りのない家ではカビが発生しやすいことが想定できます。このため、現状のカビについては薬剤でカビを殺す処理が必要だと判断できます。そして、日常的に風の通りを作るのがよいです。
Q10 自宅にヒバのアロマをつけるキューブの香りを戻すにはどうしたらよいでしょうか?
A10 表面を紙やすりなどで削ることで、香りが出るようになります。
Q11 今後、このサンプル帳の価格は上がりますか?
A11 昨今の木材不足のため木材相場が高騰しており、価格が上がる可能性があります。
また初版のサンプル帳の木材が次回以降の版では入手できない可能性もあります。
おわりに
今回のプログラムは2部構成としました。
前半は、SAMPLES 6の紹介と木材使用時の疑問に対して講師が答える質疑応答形式。後半は、木材を実際に講師がカンナで削るなどの実演と共に、会場での参加者にカンナかけ および木材の肌触りと香りを体験しました。当日の会場参加者の様子から、皆さんに楽しんでいただけたと感じています。特に後半の実演は、参加形式で自由に意見交換を交わし、参加者に木に触れる体験をしていただけたと思います。