JIDA in-house female designer’s research association (インハウス女性デザイナー研究会)はJIDA東日本ブロックのインハウス委員会の中に属した、デザイナー育成の場を提供する施策のひとつ。年度(4月から翌年3月)を一区切りとし、年度初めにテーマを決め、月に1度定例会を開催している。
この若手対象の異業種活動は「活動で得たものを各社に持ち帰り業務の革新に活かすこと」を成果目標に、各企業代表として参画するデザイナーが普段の業務から離れた経験を他社と交流しながら、課題解決の手法を積み重ねることで知識を広げ、参加メンバーの職能を向上させる「成長」の場となっている。
1. 第30期の活動概要
運営
研究会
本会は、公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会の賛助企業でデザイン部署等に所属する女性で構成する。
本年度参加企業(五十音順)
キヤノン(株)/(株)東芝 / トヨタ自動車(株)/ 日産自動車(株)/ 富士ゼロックス(株)/三菱電機(株)
メンバーと役割
委員は1年毎の改選とする。
本年度委員
- 委員長 大久保 恵 富士ゼロックス(株)
- 運営 坂田 礼子 三菱電機(株)
後藤 萌美 (株)東芝 - 会計 浦上 依里 日産自動車(株)
高橋 美早 三菱電機(株) - 日程管理 小林 香奈 トヨタ自動車(株)
- 記録/報告書作成 伊藤 成美 キヤノン(株)
星野 佳織 (株)東芝 - 研修 大立 綾香 キヤノン(株)
活動方針
- 研究テーマ活動
本会は、インハウスデザイナーの視点から通年の研究テーマを設定し、これに沿った活動を行う。 - 異業種交流体験の充実
各社の特色を生かした知見の広がる場を設け、各自の新しい気づきを促す。
上記の活動を行うことにより、各メンバーのスキルアップと独自視点の研究報告によって参加企業に資することを目的とする。
活動実績
研究会は毎月一回の開催を基本とし、以下の内容で実施。
- 定例会(テーマ活動、各企業訪問) 年10 回
- 集中作業合宿 1 回
- 研究報告会 1 回
2. メイン活動について
背景
十人十色のワークライフ
JIDA女性デザイナー研究会(以下、JIDA女と表記)は今年度で30周年。この30年で世の中の働き方は大きく変化し、女性はもちろん多様な人が働くことが求められており、各所で働き方改革の機運が高まっている。その中で、モチベーション高く働く人がいる一方で、自らの意に反して職を離れざるをえない人もいる。個々にあった働き方・生活を続けられる環境づくりをサポートする必要があると考えた。
「十人十色のワーク・ライフ」 とは「一人ひとりが、生活と仕事に満足できる状態」であるとし、それをデザインの力で実現させることを目標に、スタートした。
現状と課題
誰もが働きやすい環境へ変えるために、日本では何が行われているか。まず、長時間労働などの問題を是正し、多様な人材の活躍を目的とした法律や企業制度の整備が挙げられる。また、ロールモデルをメディアが多く取り上げ、セミナーが開催されている。しかし、現状は制度があっても、自分の職場では使える風土でない、ロールモデルを見ても、自分とはかけ離れたスーパーマン・スーパーウーマンだったりすることがほとんどで、働く現場の人々が自分事とは捉えられていない。
そしてJIDA女メンバー自身のワークライフについて振り返ってみた。すると、先の見えない将来に不安がある、同僚との人間関係やプライベートの面で悩んでいるけれど言うことができない、といった課題に気づいた。また、それらの課題は我々だけの課題ではないと考えた。
仮説
そこで、個々が仕事・生活に満足した状態でいる条件として、下記仮説を立てた。
- 人生の選択肢を増やせる知識作りが必要ではないか
- 普段から皆が話しやすい関係作っておくことが必要ではないか
調査・分析
各参加企業の社員約50名にワークライフに関するヒアリングを実施し、以下3つの発見があった。
ヒアリングからの気づき
- 無数の選択肢があることを知っていれば“もしも”の状況に備えられる
例:Wケアの発生、海外出向 - 日頃からコミュニケーションをとり、相互理解することが大事
例:子供の有無による女性間の壁、上司部下の関係 - 働き方を変えるには周囲の協力が不可欠
例:産休取得、時短勤務
そこで以下の条件を達成できるツールを開発することとした。
達成条件
- “もしも”の状況に柔軟に対応するための「先輩たちの事例を参考にできる仕組み」
- 普段から周囲とのコミュニケーションをとるための「コミュニケーションの壁を壊すきっかけ」
ツール検討・検証
自分のプライベートの価値観を打ち明け、共有することはとてもハードルが高い。知らず知らずのうちにコミュニケーションの壁ができてしまっていることも多々ある。ツールは職場や家庭等で、気軽にポジティブに使えるものとすることにした。プロトタイプを作成しメンバー内で検証を重ねた。さらに、各自プロトタイプを会社に持ち帰り、ツールの実用性の検証を行った。述べ100人の方々にご協力いただき、ツールの精度を高めた。
提案ツール 「描きコミュコミック」
コンセプト
普段、人には話しづらいプライベートの価値観を、コミック、事例を通じて楽しく気軽に共有し、コミュニケーションの壁を壊すきっかけを作る。
仕様
ワークライフに関するコミュニケーションの壁を壊すきっかけ作りを目的とした本冊子は4コマ漫画形式のコミュニケーションツール「描きコミュコミック(描きこむコミュニケーションコミック)」と、ヒアリング結果をまとめた、読んで学べる事例集「読みコミュストーリー(読み込むコミュニケーションストーリー)」の2つのツールで構成。コミックは全16篇、事例は全37篇。
- 描きコミュコミック(描きこむコミュニケーションコミック)
4コマ漫画型のコミュニケーションツール。コミックの中でさまざまなライフ・ワークへの課題を抱え、悩み、ちょっぴり残念なエンディングを遂げている登場人物が、どうすればハッピーになれるか考え、実際にマンガを描いて、共有し合う。 - 読みコミュストーリー(読みこむコミュニケーションストーリー)
読んで学べる事例集。育児・出向・介護など、ライフイベントに遭遇した方のストーリーを読み、自分だったらどうするか、どう感じたかなどを考え、共有する。
デザイン要件
- 世代や職業、性別によらず活用できる。
- 多様な価値観を認め合えるよう、偏りがなく、自由度の高い回答ができる仕組み。
- 重くなりがちなテーマを柔らかく伝える。
- 働く現場の生の声を参照できる。
報告会
2017年3月7日 AXISギャラリー(六本木)にて開催。計35団体、79名に参加をいただいた。研究内容報告とともにワークショップを実施しツールを体験していただいた。
アンケート結果・参加者の声
アンケート結果
参加者の声
- センシティブな議題やタブーな領域に明るく切り込んでいたので楽しく聞けました。(28歳女性)
- トレンドのテーマを嫌味なく体験型としたところに共感が持てた。(42歳女性)
- マンガをきっかけとしてディスカッションが自然に盛り上がる良い仕掛けだと思います。会社で実践します。 (43歳男性)
- 「腹を割る」ということはとてもハードルが高い。そのコミュニケーションを実現する一つのアイデアが出たのはいいと思う。(52歳男性)
今後の展望
このテーマはこの活動で終わりにせず、各自社内での拡散や外部に向けての提案を進めていく。より多くの人に活用していただくため、冊子データを公開する。
※利用規約は下記に記載
3. 異業種交流体験
各社の協力を仰ぎながら、下記の内容を実施した。
- セイコーエプソン (株)「信州 時の匠工房」見学
宝飾時計の組み立て工程を見学。職人の技を間近で拝見することが出来、感銘を受けた。 - 日産自動車(株) クレイモデル・コンセプトカー展示 / デザイン棟共有スペース見学
クレイモデルの精巧さや、デザインする環境が充実していることに驚嘆した。
4. 30期総括
結成から30年という節目を向かえたJIDAインハウス女性デザイナー研究会は、自分たちから変えていかなければならないという思いから、 「働き方」 という今の社会の課題に真っ向から立ち向かい、研究活動をスタートしました。問題の本質を捉え、解決する仕組みを考え、検証を繰り返して、「描きコミュコミック」というツールの提案をすることができました。普段メーカーのものづくりを担うデザイナー達にとって、このような身近な社会問題への課題解決への提案をしたことは、どんな分野でも具現化して発信をすることができるという、デザイナーとしてのスキルへの自信や、視野の広がりにも繋がったのではないかと思います。
デザインが広義になる中、デザイナーの役割の広さを認識できた今期の活動では大変貴重な経験を積むことができました。これからの研究活動も、時代と共に変化し、一人ひとりが成長できる場であり続けるよう、継承と、発展を目指して励んでいきたいと思います。今後とも暖かいご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
最後に、本研究で開発したツールは多くの方にご使用いただいてこそ価値が生まれるものです。広くご使用頂き、社会へ貢献できるものとなれば幸いです。
( 大久保 恵 富士ゼロックス(株) )
文責: 伊藤 成美 キヤノン(株)/星野 佳織 (株)東芝
5. 「描き コミュコミック」 データ公開
利用規約
本冊子は、法人、家庭内でのコミュニケーションツールとしてのご使用を想定しています。商用としての再配布、無断転載、転売は禁じます。ご意見、ご感想、お問い合わせは日本インダストリアルデザイナー協会までご連絡ください。
公益社団法人 日本インダストリアルデザイナー協会
〒106-0032 東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F
E-mail:jidasec@jida.or.jp
発効日2017年3月7日
発行 JIDAインハウス女性デザイナー研究会30期