JIDA in-house female designer’s research association (インハウス女性デザイナー研究会)はJIDA東日本ブロックのインハウス委員会の中に属した、デザイナー育成の場を提供する施策のひとつ。年度(4月から翌年3月)を一区切りとし、年度初めにテーマを決め、月に1度定例会を開催している。
この若手対象の異業種活動は「活動で得たものを各社に持ち帰り業務の革新に活かすこと」を成果目標に、各企業代表として参画するデザイナーが普段の業務から離れた経験を他社と交流しながら、課題解決の手法を積み重ねることで知識を広げ、参加メンバーの職能を向上させる「成長」の場となっている。
2015年4月〜2016年3月
●定例会(1回/月)
1)メイン活動・・・研究「クリエイティブのヒント、トキメキを作るには?」
期初にテーマを選定し、およそ一年後の報告会まで継続研究
2)サブ活動・・・・クリエイティブ体験、講話受講、解説を伴う博物館視察など
メンバーを通じ各社に協力を依頼
●報告会(1回/年) メイン活動における成長と成果を報告
●研修出張(1回/年) 研究結果の実証実験と振り返りを実施
委員長 ・・・・・・亀川 茉那 セイコーエプソン(株)
副委員長 ・・・・・岩井 彩乃 キヤノン(株)
会計 ・・・・・・・坂田 礼子 三菱電機(株)
副会計 ・・・・・・河野 さゆり (株)東芝
報告会運営 ・・・・大久保 恵 富士ゼロックス(株)
報告書作成 ・・・・小林 香奈 トヨタ自動車(株)
記録/写真 ・・・・後藤 萌美 (株)東芝
研修 ・・・・・・・浦上 依里 日産自動車(株)
小谷津のぞみ キヤノン(株)
合計9名
29期メンバー 一年で5名程度の入れ替わりとすることで成果の伝承が可能
働き方は年々多様化し、「働く女性」というのはもはや特別な存在ではない。メイン活動のテーマの設定にあたりできるだけ多様な視点を取り入れることで、過去数年続いた「女性」「アラサー」のキーワードから脱却、時代に即したものした。
定例会は都内を中心に日帰りを基本として実施。
定例会の精度を高め、持ち帰りの仕事も最小限とすることで負担を考慮した活動を心がけた。
気になる商品やサービスに出会ったときの「あ、いいな」という感覚やドキドキワクワクそして衝動買い。その条件は何なのか。これを明確にする事で、お客様を惹きつけるデザインのヒントになるのではと推察。気になるデザインは、人をトキメかせる特別な要素を持っている。逆に、そう感じないものは、その要素を持っていないとの仮説のもと、テーマを「クリエイティブのヒント、トキメキを作るには?」とし、トキメキとは何かを探り、そこからわかった事を活用するための研究活動を開始した。
取り組むテーマはすぐに決まった
まずは自分達の体験を振り替える事で、トキメキの事象を洗い出した。
また、多くの世代や職業、性別の方々を対象にフィールドワーク・インタビュー・パネルディスカッション等を行うことで、俯瞰的に漏れなくトキメキの事象を収集した。
富士ゼロックス(株)での男性社員の方々へのインタビューの様子
パネルディスカッションを通じ、ときめいた状況の詳細を共有、トキメキの多様性を確認。
メンバーでのディスカッションは毎回白熱したものに。
収集した100余のトキメキ事象を俯瞰してみると、近いものがある事に気が付いた。
その近いものをグルーピングし、各グループの共通項を言語化した。結果、12個に分類する事が出来た。
このフェーズでは特に、各社ならではのアプローチ手法や問題がみられその多様性はユニークであり、新鮮な発見であった。
トキメキを12要素に分類したところで、トキメキを感じた「体験」が12要素のどれに当てはまるかを試したところ、複数のトキメキ要素に該当するものがあった。また、時間経過によって感じるトキメキの種類が変化するものもあった。そこでトキメキを感じた体験を時間軸で振り返り、タイミングごとの気持ちの上下をグラフ化した。
「時系列で見るトキメいたこころの動き」
結果、トキメキ要素が発生したことを契機にポジティブな方向に気分か高揚することが分かった。
ここから、トキメキとは気持ちを上げる起爆剤であると定義した。
このように体験を時系列で整理すれば、例えば購買意欲の低いお客様がときめく(購買意欲が増す)ためにはどのトキメキ要素がどのタイミングで必要か、といった考え方に応用できるのではないか、という外枠を掴んだ。
トキメキ12要素を商品作りに活かすため、12種類のイラストで構成された「トキメキカード」をデザインツールとして制作した。トキメキカードには、その要素をイメージさせるイラスト12種類が、カード1枚に1つずつ記載されており、カードのデザインや使い方は、学生や社会人とのワークショップで検証を行い、実業務で活用できるように精度を高めた。
早稲田大学でのワークショップとプロトタイプのトキメキカード
日産自動車でのワークショップと最終アウトプットのトキメキカード。
トキメキカードの表面 12の要素は、漢字/イラスト/英語で表記されている。
いつでも身近に置いておきたくなるような、高触感のケースもデザインした。
- トキメキの「発生を契機にテンションをあげる」特性を応用する
- メンバーが日常的に活用且つ社内共有できる
- 活動当初挙がった「経験を積むほど好きなものやときめくモノの傾向が偏る」が改善できる
- クリエイティブのヒントになる
- 世代や職業、性別によらず活用できる
- 身近においておくことが出来る
- 要素を理解、認識しやすい
- 漢字、英語、イラストをシンプルに構成
上記メイン活動を中心に、2016年2月22日(月) 六本木アクシスギャラリーにて開催。
50分間の報告会は活動経緯の報告のためのスライドと、トキメキカードの使用方法説明を目的としたワークショップの2部構成とした。
計58名が出席し、下記の反響が得られた。
また現在JIDA活動に参加していない企業からの出席者も複数みられ、第30期からの参加を検討するなど裾野を広げる効果も見られた。なおこの報告会の様子は株式会社三栄書房出版 モーターファン別冊 カースタイリング8号に4ページにわたり掲載された。
2016年3月25日(金)・26日(土) 金沢に出張。
今期活動の結論とした12個のトキメキ要素について、メンバー全員で視察、体験し、総まとめのトキメキ体験の収集を行った。要素の解釈を広げるとともに、一年間の活動の振り返りとした。
21世紀美術館などでのトキメキ体験がフレッシュなその日のうちに、フォトブックにまとめた。
各社の協力を仰ぎながら、下記の内容を実施した。
●三菱電機(株) | ADVANCED GALLERYの視察 |
●セイコーエプソン (株) | ものづくり歴史館の視察 |
●富士ゼロックス(株) | HUMAN CENTERED DESINGのレクチャー |
●日産自動車(株) | エクステリアクレイ造形体験 |
PERCEIVED QUALITY DESIGNのレクチャー | |
ブランド訴求のレクチャー | |
●トヨタ自動車(株) | トヨタ産業技術記念館の視察 |
今期のテーマは、今までのインハウス女性デザイナー研究会のものとは一線を画したものだったと思います。「女性ならでは」の価値観を追究しようとするテーマが多数であった一方、性別や世代が異なっても共通の価値観に踏み込み、カードという実業務での活用を見据えたアウトプットを出せた事が今期活動の最大の成果だったと思います。
「女性ならでは」のテーマにしなかった理由は、メンバーの意志と昨年度活動に対するアンケートでご意見をいただいたためです。それは、働き方は年々多様化し「働く女性」というのはもはや特別な存在ではなくなってきているという社会の変化が起因しているのでしょう。
この状況は、このインハウス女性デザイナー研究会が設立された時からおそらく変化していると思います。また、今後も時代と共に変化するかもしれません。
女性にこだわらず、「インハウスデザイナーが集まってチームとなり、共に情報交換し研究活動をする場」として、より有意義な活動にするためにどうすれば良いのか、考え行動する事が私達に求められる事だと捉えています。
また、この会に参加させていただき成果を上げる事ができたのは、皆様のご理解とご協力があったからです。私自身、初めて委員長というチームをまとめて推進する立場を経験できた事で、社内の業務に大いに応用できています。
より多くのデザイナーが成長し、周囲へ新しい視点を発信していけるような場にできるよう、今後ともご理解とご協力をお願い申し上げます。
(亀川 茉那 [セイコーエプソン]) 文責:トヨタ自動車(株)小林 香奈