理事長挨拶
私たちJIDA(公社日本インダストリアルデザイン協会)は1952年、
まさにサンフランシスコ講和条約によって日本がその主権を取り戻した同年に、
柳宗理・剣持勇・渡辺力ら25人の、デザインの領域を横断した先人たちによって創立されました。
それは日本そしてアジアにおいて初となるデザイン全国団体の誕生でもありました。
また翌年の1953年には外務大臣や経団連会長などを歴任した資本家の藤山愛一郎氏が
米国のインダストリアルデザイナー、レイモンド・ローウィの「口紅から機関車まで」を翻訳しており、
我々の歴史と相まって産業デザインを新たな基盤として立国した
日本の黎明期のビジョンを物語っています。
続く1957年には、JIDAは世界初の国際デザイン団体ICSID(現WDO)の創立団体の一つとして、
世界のデザインコミュニティの礎を築きました。
こうしてみると戦後の苦しい時代に大きなビジョンを掲げ、
日本そして世界の産業を作り上げていくためにデザインという旗を振った
日本の先人たちへの畏敬の念が込み上げてきます。
日本のデザインの起こりから七十余年。
現在のデザインを背負う、私たちの世代はどうでしょう。
デザイナーは狭いデザインの領域にとらわれずに、互いに越境できているでしょうか。
政治や行政はデザインを国の力として生かせているでしょうか。
またデザインに夢を託して、世界をつなぐ活動が日本にできているでしょうか。
こうした姿勢は、まさに今デザインに求められるもの。
我々の創成期に先人が示したパイオニア精神こそ、
今の私たちが襟を正して見習うべきマインドセットだと自戒を込めて感じます。
現在のJIDAは、変化の最中にあります。
この歴史にふさわしい、あるべき状態の団体かといえば、そうではないところもあるでしょう。
でも理想と現実のギャップが見えたのだから、まずは不格好でも変化を試みています。
未来は誰にもわからないし、変化はそもそも間違いに満ちていて当然です。
生物の進化がそうであったように、行き当たりばったりの細動の先にこそ、
時代にフィットした未来への進化がみえてくると信じながら、私たちは歩んでいます。
JIDAは2021年、「日本インダストリアルデザイナー協会」から
「日本インダストリアルデザイン協会」に改称いたしました。
入会資格を「プロフェッショナルのデザイナー」から
「産業デザインに関わるプロフェッショナル」へと変更し、
エンジニア、研究者、キュレーター、素材メーカーなど、デザインを培う多分野の
プロフェッショナルへと門戸を開きました。
また2023年までの2年間は日本デザイン団体連合会の幹事団体として、
文字通りデザインの業界団体の垣根を超えた深い関係性を構築してきました。
1966年から続いた「D8」という名称に別れを告げ、
「DOO」へのリブランディングと活動体制の更新をリードしました。
また「JAPAN DESIGN SUMMIT」という大規模なイベントのDOOでの初の共同開催などを通して、
かつてなくプロフェッショナルデザイナー同士の関係性が強固になっていると思います。
さらに2023年にはWDOの総会である「世界デザイン会議」を東京で34年ぶりに日本開催しました。
JIDA前理事長の田中一雄が実行委員長を勤め、
また同会議において私こと太刀川英輔が、当団体と日本を代表してWDOの理事に選出されました。
JIDA理事長がWDO理事を兼務するのは榮久庵憲司氏以来、約五十年ぶりのこととなりました。
伝説の榮久庵さんのようには行かないかもしれませんが、デザイン黎明期の日本のように、
世界でデザインをリードできるように励みます。
またWDOでの活動がきっかけとなり、JIDAとWDOに所属する世界中のデザイン団体や活動は、
これまでになく深いつながりで結ばれています。
2024年には、JIDAが2010年に日本初のデザイン専門検定として開始した「プロダクトデザイン検定」を、
より広いデザイン領域をターゲットとした「JIDAデザイン検定」としてリニューアルしました。
もはやデザイナーだけがデザインをする時代ではありません。
産業のリデザインは、デザイナーという専門性を超えた共創によって初めて達成できるもの。
この検定が多くの一般の人たちにとって、
デザインへの最初の一歩となるものに成長することを期待しています。
インダストリアルデザインは、長きにわたって産業のためのデザインを指しました。
しかし肝心の産業が劇的に変化している不安定な現代です。
これからのインダストリアルデザインは、気候や生態系の限界、デジタル化の劇的な変化を乗り越えて、
産業をデザインし直すことを孕むでしょう。
そして既に始まっている大転換の中核には、
領域を超えた共有の哲学としてのデザインが宿っています。
JIDAはこれからますます、産業の変化を生み出すデザイン運動を触発して参ります。
会員の皆様はもとより、
これから産業をリデザインしたい皆様にもぜひJIDAの活動に加わっていただければ心強いです。
JIDAを一つのハブとして新しいデザインのうねりを生み出していきましょう。
Designing beyond design.
デザインその先のデザインへ。
デザインを旗として時代に刻む、新たな変化への挑戦を、日本からみなさまと実現したいと願います。
変わり続けるJIDAをご支援のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。
2024年5月27日
公益社団法人 日本インダストリアルデザイン協会
理事長 太刀川 英輔
NOSIGNER代表 / JIDA (公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会) 理事長 / WDO(世界デザイン機構)理事 / 進化思考家 / デザインストラテジスト / 金沢美術工芸大学 客員教授 / 2025大阪関西万博日本館基本構想クリエイター
デザインで美しい未来をつくること(実践:社会設計)、自然から学ぶ創造性教育で変革者を育てるこ
と(理念:進化思考)を軸に活動を続ける。
プロダクト、グラフィック、建築などのデザイン領域を越え、次世代エネルギー、地域活性、SDGsなどの産業変化を促す数々のインダストリアルデザインで総合的な戦略を描き、成功に導く。
創造性を生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し、様々なセクターの中に変革者を育てる創造性の研究者および教育者でもある。
これまでグッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞大賞他、100以上の国際賞を受賞。
審査員としてグッドデザイン賞(日本)、DFA(香港)、DIA(中国)、Golden Pin(台湾)、VMARK(ベトナム)、WAF(世界)、等の審査を歴任。
主なプロジェクトに、OLIVE、東京防災、PANDAID、山本山、横浜DeNAベイスターズ、YOXO、2025大阪・関西万博日本館基本構想など。
著書に『デザインと革新』(2016)『進化思考』(2021)がある。